Adventi Ének / Kodály Zoltán
この曲は、中世以来歌い継がれてきた古典的な美しい旋律を持つ待降節の賛美歌である。待降節とは、キリスト教におけるクリスマスの準備期間を示し、キリスト誕生を祝う愛と喜びに包まれた待望の時を意味する。
バビロン捕囚の悲しみの中からメシアの来臨を待望するこの歌の精神は新教徒の心をも捉え、19世紀に翻訳されて以来広く愛唱されるようになった。Emmanuelは「主は我らと共にあり」という意味で、キリストの呼び名の一つである。
コダーイは、5連からなるこの賛美歌を、混声3部合唱に編曲した。第1連では、厳かな旋律をユニゾンで歌い上げる。第2連からは旋律と対旋律に分かれ、互いに呼応するように掛け合う。イオニア旋法による素朴で力強いメロディに、それぞれの連ごとに鮮やかな和声がつけられ、豊かなヴァリエーションを形成している。最後は希望に満ちて、壮大に締めくくられる。
Veni, veni Emmanuel,
Captivum solve Israel,
Qui gemit in exilio,
Privatus Dei Filio.
Gaude, gaude!
Emmanuel nascetur pro te, Israel.
Veni O Jesse Virgula,
Ex hostis tuos ungula,
De specu tuos tartari,
Educ et antro barathri,
Gaude, gaude!
Emmanuel nascetur pro te, Israel.
Veni, veni O Oriens
Solare nos adveniens;
Noctis depelle nebulas,
Dirasque noctis tenebras,
Gaude, gaude!
Emmanuel nascetur pro te, Israel.
Veni, clavis Davidica;
Regna reclude caelica;
Fac iter tutum superum,
Et claude vias inferum.
Gaude, gaude!
Emmanuel nascetur pro te, Israel.
Veni, veni Adonai,
Qui populo in Sinai,
Legem dedisti vertice,
In majestate gloriae.
Gaude, gaude!
Emmanuel nascetur pro te, Israel.
Amen.
来たれエマヌエルよ
捕らわれのイスラエルを解放したまえ
彼らは神の一人子から引き離されて
嘆き悲しんでいる
喜べ
エマヌエルは汝のために生まれたもう、イスラエルよ
来たれエッサイの若枝よ
汝の民を敵の爪から逃し
地獄のまなざしから
深き淵より導き出したまえ
喜べ
エマヌエルは汝のために生まれたもう、イスラエルよ
来たれ夜明けの太陽よ
我らに分け与えられた救いよ
夜の霧を退け
夜の闇を追い払いたまえ
喜べ
エマヌエルは汝のために生まれたもう、イスラエルよ
来たれダヴィデの鍵よ
天の王国を開きたまえ
天への旅路を与え
冥府への道を閉ざしたまえ
喜べ
エマヌエルは汝のために生まれたもう、イスラエルよ
来たれアドナイよ
シナイ山の民の主よ
天上から立法を与えたまえ
大いなる栄光のうちに
喜べ
エマヌエルは汝のために生まれたもう、イスラエルよ
アーメン
The Lamb / John Tavener
John Tavener (1944-2013) は、現代のイギリスを代表する作曲家の一人。
テキストは同じくイギリス人であるWilliam Blake (1757-1827) の詩集「Songs of Innocence 無垢の歌」(1789) に収められている。彼は銅版画家でもあり、この詩集にも幻想的な銅版画が多く添えられている。
曲は終始柔らかく優しく、まさにふわふわの羊の毛のようなテクスチャーで描かれる。前半は子羊=幼いキリストへの問かけを女声2声で表し、後半はそれに対する答えを、混声4声の神秘的で深みのある和声が彩る。
心地よい詩のリズムが、平易で明快な言葉の反復によって作り出される。その詩に音楽が寄り添い、聴く者にキリストの愛に包まれるような安らぎを与えてくれる。
Little Lamb, who made thee?
Dost thou know who made thee?
Gave thee life, & bid thee feed
By the stream & o'er the mead;
Gave thee clothing of delight,
Softest clothing, woolly, bright;
Gave thee such a tender voice,
Making all the vales rejoice?
Little Lamb, who made thee?
Dost thou know who made thee?
Little Lamb, I'll tell thee,
Little Lamb, I'll tell thee:
He is called by thy name,
For he calls himself a Lamb.
He is meek, & he is mild;
He became a little child.
I, a child, & thou a lamb,
We are called by his name.
Little Lamb, God bless thee!
Little Lamb, God bless thee!
William Blake “Songs of Innocence”
小さな子羊さん 誰がおまえをつくったの?
誰がおまえをつくったのか知ってるの?
命を与えてくれて 食べなさいって言ってくれた
小川のそばで 広い牧場で
おまえに喜びの衣を与えてくれた
とっても柔らかくてふわふわしている輝く衣
おまえにこんなにも優しい声を与えてくれた
すべての谷を喜びで満たす声を
小さな子羊さん 誰がおまえをつくったの?
誰がおまえをつくったのか知ってるの?
小さな子羊さん わたしが教えてあげましょう
小さな子羊さん わたしが教えてあげましょう
そのかたはおまえの名前で呼ばれているよ
だってそのひとは 自分を子羊って呼んでるんだ
そのかたは優しくておだやかで
ちいさな子どもになったんだ
わたしは子ども おまえは子羊
わたしたちは そのひとの名前で呼ばれているよ
小さな子羊さん 神さまの祝福がありますように
小さな子羊さん 神さまの祝福がありますように
混声合唱のための「どちりなきりしたん」より
V Epilogue: Ave Verum Corpus / 千原英喜
千原英喜(1957-)作曲<混声合唱のための どちりなきりしたん>の第5曲目、エピローグに当たる。初演は2002年、F.M.C.混声合唱団の第54回定期演奏会において、同組曲のアンコールピースとして書かれた。1549年、フランシスコ・ザビエルによってもたらされたキリシタン文化を背景に、千原独自の信仰世界が表現されている。
テキストには当時の日本人修道士によって書かれたキリスト教典礼書や祈りの言葉が自由に使われ、異国情緒と当時の信仰を想起させる。
今回演奏する第5曲目は、それまでの4曲で完結したストーリーのその後を連想させる造りとなっている。深く沁みわたるGes Durで描かれ、ステンドグラスから差し込む柔らかな光のように、静かに心を満たしていく。
しかしテキストには、キリストの受難を歌ったAve verum corpusが用いられており、明るく澄んだ響きの中に、その後のキリシタンたちを待つ壮絶な運命と深い悲しみを内包している。
中間部にはグレゴリオ聖歌のメロディが挿入されることで、時空を超えた躍動感ある祈りの曲となっている。
Ave verum corpus,
natum de Maria virgine:
Vere passum, immolatum
in cruce pro homine:
Cujus latus perforatum,
unda fluxit et sanguine:
Esto nobis praegustatum
mortis in examine.
Amen.
幸いなるかな、乙女マリアより生まれ給いしまことの御体よ、
人のために苦しみを受け、十字架の上にて、いけにえとなり給いし御者よ、
御脇腹を刺し貫かれ、(水と)血(と)を流し給えり。
願わくば死の試練に立ち、われらに天国の幸いを味わしめ給え。
アーメン。
※全音楽譜出版社刊「混声合唱のための どちりなきりしたん」より転載許諾済み